書面保存は本当にイエローカード? ー電子帳簿保存法の誤解

目次

1.紙の書類保存はイエローカード?

 今年から本格的に電子帳簿保存法が適用されました。その中で目に付くのが、ソフトウェアメーカーがテレビなどで不安を煽るようなCMを流していることでしょうか。典型的なのは楽〇精算で会社の事務所内で電子取引を印刷して保存しようとするとサッカーの審判が出てきてイエローカードを出して書面保存はダメと笛を吹いています。

 一方で、特に個人事業主や一人社長などで割とITに強い方、紙の書類もスキャンして電子で保存しておけば請求書類全部捨てていいと思っている方もいらっしゃいます。

 この電子帳簿保存法、本来の趣旨は産業界からのペーパーレス化の推進による電子保存の要請に基づくものでした。したがって、本来は「納税者の負担軽減」が目的でした。ところが一方で痕跡を残さず遡及修正が可能というコンピュータ処理により「適正公正な課税の確保」という問題が新たに生じ、様々な条件が付き結局納税者にとってかなり面倒なものになりつつあり、喜んだのは会計ソフトウェア業界だけというトホホな方向に向かっています。

 国税の元ベテラン調査官の方などにお聞きすると、調査する立場だと電子化は嫌だそうです。紙の書類はそこから怪しい雰囲気を感じ、修正指摘事項を探すことができるのですが電子データからは何も感じられないからだそうです。ずいぶん職人的な話ですがなんとなく会計監査の現場にいたものとしては理解できます。

 こういった諸事情が絡みつき、かつ実は面倒になっただけということに特に中小企業関係者からのブーイングが入り、なんだか電子帳簿保存法最終的にはやたらとわかりにくくグダグダなものになったというのが感想です。

 上場するレベルの大企業であればきちんとこの法令を遵守し、かつある程度ペーパーレス化による効率化享受できるとは思います。しかし、中小企業レベルはかなり疑問、あえて暴論をいうと最低限やっておけばどうでもいいよ!と思っています。

 なぜこんなグダグダなものになったのでしょうか?まずはこの法律の内容に対する誤解があると思います。

 

2.そもそも3つが混同されている

 電子帳簿保存法そもそも、ざっくりいうと以下の3つのタイプの電子保存からなります。

  • 電子帳簿の保存
  • スキャナ保存
  • 電子取引

 電子帳簿、ざっくり申し上げると会計ソフトのデータ、いちいち紙で打ち出して保存しなくて、電子のまま保存して差し支えないという規程です。断言はできませんが、市販の有名な会計ソフトはほぼ問題なく条件を満たしているのではと思われます。

 2つめのスキャナ保存は紙の書類も電子化して保存して差し支えないというものです。ただし、これには改ざん防止や検索のための様々な条件が設けられていて、まともにやると非常と手間がかかります。個人的には電子帳簿法上の要請を満たした条件のスキャナ保存の仕組みを構築しないといけないわけですから、コストと手間を考えると、中小企業にはしばらく関係のない話と思います。なぜならば、このスキャナ保存、任意規定でやらなくてものいいのです。

 実は、電子帳簿保存法による義務化は3つ目の電子取引だけです。ただ、電子取引の範囲は広く、ネット販売などで請求書がネットからダウンロードするような仕組みは電子取引ですし、メール等で請求書などを発送・受領するのも電子取引です。この電子取引について、原則は電子保存ですが、本当に紙で出力したらテレビのCMのようにイエローカードなのでしょうか?いわゆる中小企業・個人事業主目線でここから話を展開していきます。

 

3.中小企業や個人事業主と電子帳簿保存法義務

 電子帳簿保存法が施行されることになった当時、電子取引は電子保存が必須でした。加えて電子保存の要件として以下があります

  • 可視性(見読可能装置)の確保
  • 真実性(訂正削除の防止)
  • 検索要件

 可視性については、電子取引をモニターで見ることができるまたは出力が可能ということですからこの確保は難しくないと思います。

 真実性ですが、本体は訂正削除に制限がかかるようなシステムやタイムスタンプの仕組みが本来やるべきとは思われますが、これはコストがかかる話です。中小企業は訂正削除防止に係る規程を作成し、それに沿った運用をするといった、運用で乗り切ることができます。

 すると残ったのが検索要件です。これは日付、相手先、金額等、そしてその2つ以上の組み合わせや範囲指定ができるといった条件があります。ここまできっちり作りこむことはそれなりに手間がかかります。このハードルは決して低くないなというのが私の印象でした。

 多分このままでしたら煽り気味のテレビCM正しかったと思います。しかし、本来納税者の利便のために設けられた趣旨なのに負担を強いる形になったわけですから批判が集まりました。そのための妥協案だったといえると思いますが、小規模事業者の場合は税務調査時のダウンロードの要請にこたえることができれば検索要件が免除されました。

 さらに、結局紙保存も容認されるようになっています。どのような構造かというとダウンロードの要請にこたえ、かつ出力した書面を整理保存すれば検索要件は求められなくなりました。加えて電子保存が困難なことの「相当な理由」があれば電子データを保存してダウンロードで切れば紙保存で差し支えなくなりました。

 この「相当な理由」はかなり広く解釈できるので、資金力とマンパワーが十分にある大企業以外は「相当な理由」があると考えて差し支えないと、いろいろな税理士業界の専門誌では言われています。

 結論としてはきちんと税務調査の時に見せられるように電子取引の電子保存を行い、かつ今まで通りに書面保存もやっておけば問題はないということになります。したがって、紙で印刷すればイエローカードなどというのは誤りです。これを機に電子保存部分もある程度整然と保存しておく必要はありますが、極端に神経質になることはないということです。