国税が「収入300万以下副業は雑所得」を撤回した理由
目次
1.副業の雑所得判定に対する山のような苦情
国税庁は8月1日「所得税基本通達の制定についての一部改正案(雑所得の例示等)についての意見募集をしました。通常、意見募集とはいってもまぁ多分形ばかりで、たいていはもう決まっていると思っていました。
この通達案では主として副業収入に関して「事業所得」と雑所得「業務に関する雑所得」
の判定基準が示されていました。その中で、事業所得か雑所得かの区分として、「社会通念上事業と称するに至る程度」が原則、ただし副業である場合収入が300万円を超えない場合特に反証のない限り「雑所得」に該当するとしていました(このあたり詳細は以下のブログでお話しています)
週末起業に冷水を浴びせかける所得税基本通達改正(改悪?)案 – TAマネージメント かわい公認会計士・税理士事務所 (ta-manage.com)
すると、なんと一か月の間に7059通もの意見があり、中身を読むとほとんどが「おかしい、ふざけんな!」という内容でした。そして驚いたことにこの意見が国税庁を動かし、この通達は実質的には撤回となりました。どんな意見があったか少し見ていきます
2.苦情の中身
意見の一つとしてはは趣旨として副業を推進するという世の中の動きに逆行しており、また雑所得と事業所得の区分は実態を見て判断、判例でも実際に実態を見て判断しているのに形式的に副業で収入が300万以下の場合は原則雑所得というの乱暴だというものです。は例えば以下の最高裁の判例との齟齬もあります。
「「最高裁昭和56年4月24判決/弁護士顧問料事件」
(事業所得は)自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得。
ということで判例のどこにも収入基準などは示されていません。
これに対しての国税、説明はシェアリングエコノミー等を踏まえた適正な申告の環境づくりに努めた結果であり「社会通念」として事業所得に該当しない場合を明らかにしたと苦しい弁明をしていました。
そのほかに収入300万という基準がそもそも不明確、また業種によっても収入は差が出てくることも挙げられていました。確かに例えば副業の卸売業で収入300万と副業コンサル業で300万を同列に論じるのは違和感があります。
そもそもフリーランスの場合など契約形態で一部給与所得があったり、その他の所得があったりでいったいどれを主たる所得でどれを副業とするのかが不明瞭なケースもあるがどうするかなども挙げられていました。
このような感じで総攻撃状態、一方で国税側のコメントはまともに答えることができない状況でした。
3.結局どうなったか
「その所得に係る取引を記録した帳簿書類がない場合には業務に係る雑所得」となり、実質的にこの300万以下の副業は雑所得という通達は全面撤回されることになりました。
このようなこと非常に珍しいことです。恥ずかしながら自分はどうせだめだろうと思ってパブリックコメントに別に書き込みなどはしていませんでした。きちんとコメントして反論された方々は素晴らしいと思いますし、やはり理不尽だと思うことはダメもとでもきっちり意見を表明しようと思いました。
ただ、「事業所得と認められるかどうかはその所得を得るための活動が社会通念上事業と称する程度で行っているかで判定する」という部分は引き続き存在しています。
税務調査などでも思うのですが、この税務当局の「社会通念」、結構私の「社会通念」とずいぶんずれているケースが多いです。自分の社会通念が正しいと思うのは傲慢かもしれませんが、お役人の「社会通念」世間とずれていて心配だと思うのは私だけでしょうか?
そもそも、この話、副業において税務当局が社会通念上事業規模と称するに至る程度を収入300万といったん目安を出したわけで、なかなか税務当局の「社会通念」信用できません。最初に年間300万稼ぐの全然楽な話ではないですし副業ならなおさらです。所詮自分自身で額に汗を流してお金を稼いだことのない方々に勝手に「社会通念」決めてほしくないというのが実感です。