あなたが引退するときの退職金で気を付けること
目次
1.なんで退職金を考える必要あるか
今現在、バリバリ事業頑張っていらっしゃる方、あまり退職金について、いろいろと変な節税は考える必要はないのではと私は思います。ただ、全くノータッチは(20代、30代は別にして)まずく、どんな方も頭の片隅くらいには置いておいた方が良いと思います。
会社が儲かっているとき、別に社長が沢山給料もらっても問題ないと思います。ただし、税金も累進課税でかかるし、社会保険料もも年収1600万くらいまでは上がり続けます。そこで出てくるのは引退後に必要な額は会社側で取っておいて将来退職金等でもらおうという考えです。最近老後に年金プラス最低2000万は必要と話題になりましたが、少しは老後資金も欲しいものです。
加えてそこには退職金に対する様々な優遇制度があります。その一つが退職所得控除で以下のような式で計算します
勤続20年以下 40万x勤続年数
勤続20年超 800万x70万x(勤続年数-20)
以上の金額を退職金から差し引いて計算できます。
加えて、退職所得(税金がかかる金額)はこの2分の1です。ちょと24年3か月社長をやってきて3000万円の退職金もらった方の例を見てみましょう。
まず、退職所得控除=800万+70万 x (25-20)=1150万(端数の月切り上げ)といった計算になります。そして、退職所得は半分になりますので、925万に対して税金がかかる。3000万退職金としてもらっても、税金は925万にしかかからないのです。
(3000-1150)x50%=925万
そして、退職金3000万は会社の経費になりますから、これも税金が安くなります。ただし、「この会社の経費になる」ところに罠が潜んでいます。
2.退職金は会社の経費になるはず?
少し税法の話をすると退職金は法人税法34条の役員給与の損金不算入(経費としては認めない)の規程からは除かれているので、基本的には経費として問題がないのではないかと思われます。ただし、法人税法施行令70条2項において「その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額」は損金不算入としています。これが、いわゆる不当に高額な退職金は損金不算入にする規定です。
不当に高額な役員対象金は損金算入できないというのはある程度理解できます。役員退職金が法人で損金算入、そして個人所得税も優遇されているため、月給高くしても累進課税なことから、節税目的でその分は税制の優遇がある退職金で払おうと思う人はいるでしょう。これがあまりにも極端だと節税よりも租税回避の分野に入ってくるのでそれは仕方がないことでしょう。したがって、不当に高額の役員退職金を出すと税務調査が入り指摘される可能性が高いわけです。
それではどの程度が「不当に高額」な役員退職金とされないのでしょうか?税理士は一般的に通常最終月額報酬の2~3倍程度を功績倍率として勤続年数をかけたものを勧めています。これが3以内であれば一般的には「不当に高額」とはみなされないなどと言われています。例えば月給100万で20年働けば退職金は
100x3x20=6000万(最終月額報酬x功績倍率x勤続年数)となるわけです。
これに対して税務署は税務調査に入った時
最終月額報酬x同業類似法人功績倍率の平均値x勤続年数を用いてそれから大きな乖離がないかがを調査します。ただ、この「同業類似法人功績倍率の平均値」が曲者です
3.驚くべき判決
しかし、ここ数年結構役員退職金で税務当局が極端に低い功績倍率で計算をして追徴課税をするケースが出てきました。加えて、これに対し納税者が訴訟をして敗訴しています。例えば、2013年3月22日の判決で最終報酬月額32万、勤続13年の代表取締役に対し功績倍率3.0で計算し、32 x 3 x16=1248万、これに功労加算金400万を加えた1648万税務支給の退職金が税務当局より否認されました。
税務当局が出した同業類似法人功績倍率の平均値は1.18でこれによって1100万円が否認されたのです。ここでの功労加算金400万の否認は理解できますが1.18の倍率には驚きました。
加えて今年の2月19日の東京地裁判決はもっと驚く結果でした。搾乳事業・肉用牛の飼育等を行う事業で役員退職金2億9920万のうち、税務当局が妥当な額としたのは964万4000円で残りはすべて不当に高額な部分として否認した件に関し、この会社が原告として訴訟していましたが、税務当局の全面勝訴でおわりました。以下見てみましょう
原告は 110万x8 x 34=2億9920万(最終月額報酬x功績倍率x勤続年数)で役員退職金を計算しました。一方、税務当局はこの会社の年間売上が約32億のため約16億~約63億で所得が欠損でない会社3社を選び(功績倍率1.17, 1.34, 0.65)の単純平均1.17を当てはめ3964万を算定したのです。
しかし、そもそも「平均」は合理的である場合は限られています。例えば福島県の葛尾村の人口は18人で日本最小人口の村ですが、ここにユニクロの柳井さん(財産2兆7670億円)が引っ越して来たら(他の方の財産がほぼゼロでも)平均財産1466億円の日本一リッチな村になってしまいます。それは正しい見方なのでしょうか?
そもそも平均を用いることができる条件として統計でいう正規分布(左右対称の釣り鐘型の分布)が前提です。たった、3社のサンプル3つの平均では少なくとも統計的に合理的とは言えません。これで、納税者の判断を否認するといった行為が許されるのでしょうか。確かに、この件で役員退職金について、納税者の方も功績倍率8倍とやり過ぎました。しかし、正直裁判官や税務署といった所詮広い意味で「お役人」の「合理的な経済感覚」は信頼出来ないということがわかります。どうすればよいのでしょうか?
4.どうやって対処するか?
そもそも功績倍率について税務当局の判断は恣意的、かつ少なくとも統計的にサンプル少なすぎてとても合理的とは言い難い面があります。また、同業他社が役員退職金の功績倍率など他社に公開してくれるわけではなく不安定さが大きすぎます。このあたり功績倍率2.0でも3.0でもよいのですが、基本的に是認できるレベルは示してもよいのではないかと思われます。
一方不当に高額な退職金を払うインセンティブとなる一時所得の2分の1の特例はなくしてもよいのではと思います。その代わりきちんと老後に一定のお金を残せるよう退職所得控除はもう少し増やし、勤続1年につき100万程度あってもよいのではないでしょうか?この運用により、億を超えるような高額の退職金部分は法人税が減ってもその分所得税の累進課税でがっぽりとれるわけですから。
一方、当然そんなに簡単に制度は変わらないので、皆さんはどうするべきでしょうか?基本的には税務当局が当初に問題にするのは、極端に高額なケースが多いです。多分2013年3月22日判決も功労金400万がきっかけですし、今回のケースも功績倍率8倍ということがきっかけです。
老後の退職金はある程度欲しいという方は、極端な功績倍率や加算などは控え、そろそろ退職が近づいてきたら「最終報酬」を少しずつ上げていくことを考えるのが基本でしょう。そして、いざ支給の時は功績倍率を極端に高くする(最高でも3.0以内に収める)、または特別に加算するなどの不自然な払い方をしないこと、このあたりがポイントと思われます。