相続税対策に4月19日の判決は冷水を浴びせかけたか?

目次

1.相続対策とは

 あくまでも個人的意見がですが日本の相続税率は理不尽に高いと思っています。相続財産5000万円超(基礎控除等控除後)30%、1億円超が40%、そして最高累進税率は55%までになります。
 

 加えて、最悪なのが基礎控除が下げられたことです。以前は5000万+相続人の数x1000万だったので 両親+子供2人の家庭だと相続財産7000万までは相続税がかかりませんでした。 しかしこれが3000万+相続人の数x600万になったので上記のれだと4200万から相続税の対象になります。かなりの一般庶民に近い人まで相続税払わないといけないのかと思うとげんなりします。
  
 この相続税、諸外国ではどうでしょうか。アメリカは超富裕層を除き実質的に相続税はない(基礎控除が日本円で約25億円程度)です。 オーストラリア、中国、シンガポールなどもありません。OECD諸国で日本は一番最高税率は高く、同じように高い韓国、英国、フランスを除くとおおむねどの国も20%~30%程度です。 
 
 私は相続対策についてはなんとなく個人的には好きではないので他の得意な税理士の方にお願いしています。 ただ、ここまで理不尽に相続税率が高いと相続税対策をやりたい人の気持ちはわかります。例えばファーストリテイリング創業者柳井正氏、資産額は2兆7千億円といわれています。 単純に相続があってこれがすべて個人財産だったとすると2.7兆円x 55%(基礎控除等は無視)≒1.5兆円と小さな国の国家財政なみの相続税がかかり、財産は半分以下になってしまいます。これは何とかしたいと思うのではないでしょうか?

 ただし、一銭も払いたくないと極端な策に走るのも どうかと思います。その手法としてポピュラーだったタワマン相続対策に一石を投じた令和4年4月19日最高裁判決について税務通信で興味深い会対談記事が あったので紹介してみます
  

2.そもそもタワマン節税とは

 相続税の相続財産は時価(相続税法第22条)ということになっています。ただし、税務当局は財産評価通達をだし、国税のスタンスとしては原則この通達に従って評価するとしており、不動産、土地は国税が発表している路線価、建物は固定資産評価額を用いることになっています。

 路線価でだいたい地価公示水準の約8割、固定資産税評価額で再建築価額の約7割です。これだけも不動産は相続に有利です。特にタワーマンション(タワマン)などはこの評価額よりも実際の取引価額が著しく高いケースよくあります。上層階は高い取引価額となりますが固定資産税評価はほかの階と同じ、だから相続税対策として借金をしてタワマンの高層階を買うといった相続税対策が横行しました

 私も実際に金融機関と不動産コンサルや不動産会社が借入を使ったタワマン購入スキームを富裕層に売り込んでいるのを見聞きしたことはしばしばあります。相続財産評価額-借金=相続税対象の財産となるので相続税対象財産を大幅に圧縮できるわけです。

 ただし、国税庁も座してみているわけでもなく、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁の支持を受けて評価する」と総則6項で定めています。例えば国税当局が不動産鑑定士などに依頼して再評価し、その金額をもとに相続財産を算定するということが行われます。

ただし、こんなことが通常に起こると相続税の実務も混乱するので「伝家の宝刀」でやたらと抜くものではないとは言われています。おおむね条件としてはこういった相続税評価額と市場価格との乖離、高齢者が相続直前に借金をしてタワマンを購入するなどの不自然な行為そして大幅な相続税負担の圧縮の3つがそろうことが必要ではないかと考えられています。

今回の案件はどうだったのでしょうか

3.今回の案件

 2件の案件、相続の3年5か月、2年6か月前にそれぞれ約8.3億(借入約6.3億)、約5.5億(借入約4.2億)で購入約5.5億で購入した物件は相続後約5.2億売却されています。この結果相続税の総額はゼロとなりました。しかし、国税当局は総則6項を適用して時価で再評価し課税して裁判となったものです。

結果 的には裁判は最高裁まで行きましたが最終的には納税者側敗訴となりました。ここで新しいものとしては相続の3年5か月前という、巷で言われていた「3年以内」といわれた相続直前の行為とみなされるものから外れる案件に対して総則6項を適用したということです。

 ただ、一方で最高裁は鑑定評価額と相続税評価額の差があることをもって総則6項は適用されないということは明言しました。したがって、特に変な相続税対策としての不動産の購入でなければ、さほど相続の時に鑑定評価もとっておいた方がよいのではなどと神経質になる必要はないと思われます。

 この案件は高齢者が借入をして相続税評価額と時価の乖離がある物件をあえて購入したもので、裁判所も相続税を減じる意図があったと認定しています。客観的に見て限りなく黒に近いグレー、これは節税というよりも明らかな租税回避(不自然な経済行為で納税を免れる)行為といえるでしょう。

 こういったことを主体的に提案する金融機関のモラルの低さは非常に残念です。ただし、ここには最高税率55%という理不尽に高い相続税率の問題点も多くある気がして、必ずしも納税者を一方的に責める気にはならないです。