知らないと損をする、食料品1%「4つの特例」と届出の期限
令和9年(2027年)4月から2年間、飲食料品の消費税率を1%に引き下げる方針が、9月15日に閣議決定された税制改正大綱で固まりました。法案成立が前提ではありますが、国税庁もすでにQ&Aを公開しています。先日、商工会議所でこのテーマのセミナーを担当し、事業者の方々と話すなかで改めて感じたのは、あまり何が起こるかぴんと来ていない方が多いことです。実は事業者にとって本当に大事なのは、大綱に盛り込まれた「特例」の中身です。今回はそこを中心に整理します。
1.1%で何が起きるのか ― 主にマイナスの影響
消費税は「売上で預かった税」から「仕入・経費で払った税」を差し引いて納める仕組みです。今回下がるのは食料品の税だけで、家賃・光熱費・資材・機械などの税は10%のままです。この「税率のズレ」が問題を生みます。
一つめは、農家や弁当屋さんのように、売上は食料品で経費に10%のものが多い業種です。たとえば売上600万円の農家さんで、肥料・燃料・機械などの経費が350万円あれば、預かる税は6万円、払う税は35万円。差額29万円は、本則課税なら還付で戻りますが、戻るまでは事業者が国に「立て替えている」状態になります。しかも免税や簡易課税のままでは、そもそも還付を受けられません。
二つめは逆向きで、店内飲食が中心の飲食店です。売上は10%のまま、食材の仕入だけが1%に下がるため、本則課税だと納める税が増えます。年商1,000万円・食材400万円の食堂なら、納税は年28万円増える計算です。日々の支払いが減って「お金が増えた」と錯覚しやすく、きちんと納税資金として用意しておかないと決算で慌てることになりかねません。
さらに、通常であれば本則への切替えには届出の期限があること、前年実績ベースの中間申告が実態より高くなること、値札の一斉張り替えなど、本来のルールのままでは問題が山積みでした。
2.大綱の特例 ― 4本の柱
こうした問題に対し、先日公表された大綱は大きく4つの手当てを用意しています。
【特例① 給付金・資金繰り支援】
簡易課税や免税のままで還付を受けられない農林漁業者には、個別の売上高を踏まえた給付金を支給する予定です。食品事業者には資金繰り・省力化、外食事業者には資金繰りやテイクアウト等の多角化への支援、本則課税へ移る際の相談対応や税理士費用の支援も予定されています。ただし要件・金額・申請方法はこれからの予算で具体化されるため、現時点では「予定」として見ておく必要があります。
【特例② 本則課税へ移る手続きの緩和】
還付を受けるには、課税事業者で、かつ本則課税であることが必要です。免税事業者の場合、課税事業者を選ぶ届出は本来「その期が始まる前日まで」、個人なら令和8年12月31日が期限です。特例では、食料品を売る事業者は令和9年4月1日を含む期の途中に出してもよいことになりました。個人なら令和9年12月31日までに出せば間に合います。ただし課税事業者になるのは1月からで、1〜3月の食料品は8%で申告します。そして、課税事業者を選んだら原則2年間は免税に戻れないという縛りは残ります。
簡易課税の場合、やめる届出も本来は期首の前日までで、しかも簡易課税は2年間続ける決まり(いわゆる2年縛り)があります。特例では、期の途中でも届出ができ、その期については簡易課税の2年縛りも適用されません。ここは混同しやすいのですが、外れるのは「簡易課税の2年縛り」だけで、「課税事業者の2年縛り」(要するに課税事業者になったら2年間名税事業者には戻れない)ではない点に注意してください。
【特例③ 簡易課税・2割/3割特例の特別計算】
私がいちばん実務的に大きいと考えているのがこの特例です。簡易課税や2割・3割特例では、食料品の売上にかかる税と「同じ額」を仕入の税として差し引けます。つまり、食料品分の納税は実質ゼロになります。
売上1,000万円の八百屋さん(簡易課税・小売業80%)で見ると、今は売上の税80万円からみなし仕入64万円を引いて16万円を納めています。1%後は売上の税10万円から同額10万円を引いて、納税は0円です。業種区分に関係なく適用され、追加の届出も不要の見込みです(食料品以外の売上は従来どおりの計算)。「還付はないが、納税もない」という形で、免税・簡易の事業者の逆ざやをかなりの部分まで吸収する設計になっています。
なお、インボイス登録をきっかけに課税事業者になった個人の方は、2割特例が令和8年分で終わり、令和9年分・10年分は「3割特例」が使えます(法人は対象外)。この3割特例にも同じ食料品の特別計算があります。
【特例④ 中間申告と値札表示】
中間申告は、前の期の食料品の売上・仕入に1%を当てはめて計算し直すことができ、8%に戻るときにも同様の特例があります。値札については、令和9年2月〜5月の切替え前後の期間、すぐに対応できない事情があり、誤認防止の掲示をする場合に限り、新旧どちらの税込表示でもよいとされています。
3.それでも残る問題と、いまからの対策
特例で「倒産続出」のような不安の多くは手当てされました。ただ、すべてが解決したわけではありません。
まず、本則で還付を取るか、簡易・免税のまま事務の軽さを取るかという「選択」は、事業者自身に残ります。本則課税は全経費のインボイス保存と税率の仕分けが必要です。還付申告には税務署の審査があり、帳簿の説明を求められることもあります。入金まで1〜2か月程度はかかるのが普通で、その間の資金繰りは自分で耐えなければなりません。課税期間を3か月・1か月に短縮すれば早く戻りますが、申告回数が増え、こちらは特例がなく原則2年間続ける必要があります。「還付がもらえるから本則に」と安易に決めると、現場が回らなくなるおそれがあります。
次に、飲食店には特例③の恩恵がほとんどありません。店内飲食の場合は売上に対して10%課税のままだからです。本則課税の飲食店は、食材の支払いが減った分を別口座に取り分けておくことが基本です。一方、簡易課税の飲食店は仕入の税率が変わっても納税額は変わらないため、本則との差が広がり、簡易課税が有利になるケースが増えます。個人で令和9年分から簡易課税に切り替えるなら、届出期限は令和8年12月31日です。本則への移行と違い、今回の1%に伴う期中届出の特例はありません(2割特例を使っていた方には現行制度上の別ルールがあります)ので、年内に試算しておく必要があります。
そして、2年後には8%へ戻す作業がもう一度待っています。値札・レジ・請求書の対応は、実は「2回分」と考えておくべきです。
私見ですが、還付額が大きく、インボイス対応の記帳体制と税理士の伴走がある事業者は本則を検討する価値があり、立替額がさほど大きくなく、経理を家族で回しているような事業者は、簡易のまま特例を使うのが現実的なことが多いと考えています。ただ、正解は会社ごとに違います。まずは自社の申告方法と、立替・納税増がいくらになるのかを数字で確認すること、そして期限のある届出に間に合うよう、早めに税理士や金融機関と相談の場を持つことをおすすめします

