消費税のよくある盲点と税理士賠償

目次

1.­消費税と税理士賠償

 税理士として頭が痛いのは損害賠償です。国家資格でもある税理士、高度な善管注意義務が求められクライアントのために最善の選択ができるように業務を遂行しなければなりません。そして、業務において故意や過失による損害をクライアントに与えてしまった場合は損害を賠償する税理士損害賠償(いわゆる税賠)責任が生じます。ただ、たいてい税理士は税理士賠償保険に入っているのでそれで弁償するケースが多いですがそれだからいいという話ではなく、やはりクライアントに迷惑が生じてしまうのは信頼関係上も困ったことです(賠償されるとしても)。この賠償保険が適用されたケースで約半分を占めるのが消費税に関する税賠です。なぜ多いのでしょうか?

 消費税は免税、簡易、本則の3つの方法があり、納税者はその中から自分に有利な方法を選ぶ、この選択のアドバイスでミスが生じます。また、消費税の計算期間も1か月、3か月に短縮することができる、ここにもう一つミス生じる原因があります。そしてとどめは、その届け出は適用する前の事業年度や計算期間にしなければなりませんので、後でミスに気づいてもアウトです。こういったワナが消費税には多いです。少し詳しく見ていきます

 

2.免税、簡易、本則と2年縛り、3年縛り 

 消費税免税は課税売上1000万以下納税が免除されるという制度です。そして、簡易課税は売上で預かった消費税の一定パーセンテージを払えばよく、そのパーセンテージは例えば小売業が20%のように業種ごとに決まっていますが適用は課税売上5000万以下の事業者です。本来は本則、預かった消費税から支払った消費税を差し引いて納税を行うというのが消費税の基本で、理論的には中立的な税金です。

 ただ、本則の場合、払った方が多ければ還付が生じます。例えば課税売上1200万円の事業者が車を買ったなどで課税仕入が1500万になったら120万(1200×10%)-150万(1500×10%)=-30万で30万の還付となるわけです。この事業者が小売業の簡易課税適用だと、1200×10%x20%=24万消費税を納税しなければならないので非常に違います。だから、当然事業者は課税仕入が多い年は本則を適用して、そうでない年は簡易課税や免税の制度を使って節税したくなります。しかし、こういった節税のために免税と本則、簡易と本則といった形でわたり歩くことを防ぐのに2年縛り、3年縛りという制度があります

 簡単に言うと2年縛りは免税や簡易課税の事業者が本則を選んだら最低2年は続けないといけない仕組みです。そして100万円以上の固定資産や1000万円以上の棚卸資産等を購入した場合は3年間続けなければならないというものです。したがって、この2年縛りや3年縛り、税理士は免税や簡易課税のお客様にシュミュレーションをして、どれが一番有利か判断するときの落とし穴の一つではありますが、さすがにこれを知らずにやってしまう先生はほぼいないとは思います。ただ、さらに落とし穴があるということに気づきました

 

3.3年縛りで税理士賠償にあった話

 先日の税務通信の記事で私も肝を冷やすような税理士賠償事例がありました。この3年縛りの消費税法の条文は以下です。これをもとに3年縛りがあります。

「調整対象固定資産の仕入れ等を行った課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ『消費税課税事業者選択不適用届出書』の提出(免税事業者になること)はできない。また、当該3年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ『消費税簡易課税制度選択届出書』の提出(簡易課税事業者になること)はできない。(消費税法37条③をもとに改編、下線は著者)

 記事をもとに例にしてみるとこんな感じです。1年6月3日に設立した5月決算のある会社、1年にビル取得をする予定でした。3年縛りを考慮して、担当税理士は2年間免税事業者を続けるか、3年間本則の課税事業者かシュミュレーションして後者が有利ということで納税者に後者を勧めました。課税事業者選択適用届をこの税理士は提出して本則事業者になり1年にはこのビル部分の消費時の還付を受けました。そして、3年目の3年5月に簡易課税の選択届を出し、翌4年の消費税申告で簡易課税の申告書を提出したところ税務署から(待っていましたとばかりに)簡易課税は適用できないと修正申告を求められ、損害賠償請求を納税者から受けたというのが結末です。

 ちゃんと3年間本則を続けて3年縛りを守っていたはずなのに何が起きたのでしょうか?

 

4.どこがワナだったのか

 しかし、下線を引いたところにワナがあったのです。この会社の課税期間の初日は1年6月3日です。最速で1年6月3日に課税事業者選択届を出したとして、最初の課税期間は1年6月3日から始まります。下線の記述によれば「課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日」ですから、課税事業者選択不適用届が提出できるのは4年6月1日になります。つまり、3年5月、簡易課税制度選択届は提出できない=4年度からは簡易課税は適用できない実質は4年縛りだったということです。本来は消費税計算期間の短縮をするなどして乗り切らないといけないということになります。

 解説書などをうのみにせず、自分できっちり税法条文を読みこんでおけばこんなことは起こらないのでしょうが、なかなかこのリスク、条文をさっと読んだくらいでは私は頭に浮かびませんでした。このように免税・簡易・本則の部分の移動にかかわる部分が非常に複雑で落とし穴がたくさんあります。個人的には税務当局もミスが多い部分はよく認識していて、ほぼもれなくチェックしている気がします。

 個人的にはインボイス制度導入の際に免税・簡易は廃止になるのではと期待していたのですが、そのまま残ってしまいました。導入の際の一般の小企業の方々の大変さを思えば仕方ないのかもしれませんが個人的には残念でした。