三菱UFJ銀行のニセ税理士の問題点は何か?

目次

1.税理士の違反行為とは

 実は私は地元の税理士会で綱紀監察部長をという役割についています。内容は税理士の違反行為に対し、税理士会を通じて指導を行ったり、非税理士による税理士法違反行為をなくすための活動です。

 税理士の違反行為では 脱税指南、自己脱税、ニセ税理士に関与があります、これについては税理士会側でわかることはなく税務署側で把握してこちらに連絡してくるケースが多いです。ニセ税理士で問題になるのは税理士が他の税理士でない者に対し名義貸しをする事務員が勝手に税理士を名乗って自分で税理士業を個人的にやってしまうといったケースです。

 あまり綱紀監察といった仲間を取り締まるといった役割は自分には向いているとは思えないのですが、依頼されたことなので淡々と任務を遂行しているといったところです。

 その任務の中で税務当局と定期的に情報交換をするといったことがあります。そこで話題になったのが三菱UFJ銀行で起きたニセ税理士事件です。東京国税局の税理士専門官が会合にいらしていたのですが、さすがに個別の案件については答えては頂けませんでした。

 さて、この三菱UFJ銀行で起きたニセ税理士事件とはどのようなことなのでしょうか?ちなみに以下は筆者の個人的な見解で東京税理士会の公式な見解とは一切関係がないことを申し添えます。

2.週刊新潮の記事

 週刊新潮の記事によると三菱UFJ銀行本店のソリューションプロダクツ部ソリューションフィナンシャルグループにKPMG税理士法人から出向している社員の問題です。内容の重要度というよりも、KPMGという国際的な大手税理士事務所と三菱UFJ銀行というメガバンクが絡んでいたために週刊誌ネタになったというところでしょう。

 問題点は、銀行は税理士資格を持たないKPMG税理士法人からの出向者に税理士の名刺を渡していた問題です。彼自身も自分自身を税理士だと名乗っていたそうで、銀行内でも同僚などは税理士だと思っていたそうです。発覚したのは三菱UFJ銀行のある行員がKPMG税理士法人の方と話をしていて、この出向者が税理士資格を持っていないことを知ったというのがきっかけです。 ただ、新潮の記事によると銀行の行内で内部告発をした際の隠ぺい・報復を恐れて週刊誌に話を持って行って今回の記事になったそうです。

 週刊新潮の取材に対し三菱UFJ銀行の回答は、「ご指摘を受けて調査したところ、名刺の肩書に税理士の表記があることが判明致しました。当行顧客又は第三者に対して税務アドバイス等の業務は提供しておらず、税理士法52条違反に当たるとの認識はございません」でした。

 KPMG税理士法人の回答は「出向中の業務は税理士業務に該当しないことを確認しております」でした。

 この回答だけをみるとかなり木で鼻をくくったような酷い回答だと思います。ただし、マスコミの常で発言であえて読者の反感を強めるような形で
発言を切り取ることが常習的に行われるので、注意が必要です。本当は双方からもう少し丁寧な釈明があったのに一部分だけ切り取ったかもしれません。ただ一応ここではこの切り取った発言を下に話を進めます。

3.どこが税理士法上問題か

 まず、税理士法53条「税理士でない者は、税理士若しくは税理士事務所又はこれらに類似する名称を用いてはならない」となります。当然これは名乗った本人の違反行為で、私の知る限りだと銀行側に法的な責任はないとは思われます。銀行側はどうやら前のKPMG税理士法人からの出向者が税理士だったのでそのまま名刺に載せたようで周りも同様に思っていたようです。悪質というよりも不用意だったという面が強いのではないでしょうか?

 一方同52条違反、「税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならない」という問題があります。ただし、これも支店ではなく本部なので個別の案件に当たっていた可能性は低いかもしれません。個別の案件について税務的な解釈・アドバイスをするのではなく税法について一般的な解釈を述べるのは税理士業務には当たらないと考えられます。

 ただし、52条違反でないから・・・といった新潮が載せた通りの回答であればコンプライアンス意識が低いと言わざるを得ません。53条違反であるし、出向者ではあるものの行員として活動するのであれば名刺に書く資格などはきちんと確認が必要です。税理士会の税理士検索サイトでこれは簡単に確認できます。また行員が内部告発した場合の隠ぺい・報復を恐れて週刊誌に持っていくような行内風土というのも荒廃を感じました。

 一方KPMG税理士法人ですが、当然出向していたとしても雇用主である税理士法人に監督責任があります。もし普段から本人が税理士だと名乗っていたとしたらより大きな問題です。良くて税務署長からの厳重注意、下手をすれば業務停止といった懲戒がなされてもおかしくない案件になります。町の税理士事務所の先生でも所員が税理士法に違反するような行為をしていないかは結構気にされている方多いですから大手税理士法人としてはやや管理が甘かったというのが所感です。