監査厳格化で品質は向上したか?
「揺れる監査法人」という連載記事が今日本経済新聞で行われています。現在の「監査厳格化」での様々な問題点を取り上げている記事です。私はブログでは現在の「監査厳格化」という流れに対し批判的ですが、特に当初は一定の効果はあったと思っています。以前は大手監査法人といっても中小の監査事務所の集まりといった感じで、各部署にドンのような偉い先生がいてやり方、品質がバラバラだった気がします。
私は外資系の大手事務所だったのでかなり厳しく指導された記憶があります。新人のころは監査調書という監査記録も上司がしっかりチェックをして、きっちりと監査手続きをしたという心証ができるまで何度も書き直しをさせられました。そのためお客様に再度追加資料お願いして、深夜まで調書を事務所に戻って書き直して上司に再チェックをお願いしたことを覚えています。一方国内系の某監査法人と共同で監査を行った際などはほとんど調書などは作成しないことに驚きました。簡単にいうと結論は担当の大先生が会社の方と話をして重要な会計処理を相談して、そこでほとんど決まってしまいます。したがって、現場は大先生から指示された部分をチェックしてそれで終わりだったからです。この「部屋制度」というような大先生が自分の顧問先を独占して他部署は一切口を挟まないような仕組みはほぼ完全に姿を消しました。しかし、会社と大先生の結びつきは悪くいうと癒着だったかもしれませんが、よくいうとほぼ「会社側の一員」に近く密接なつながりがあったので、会社側も腹を割って話をしてくれ、意外に不正などは少なかった気がします。
その蜜月に終止符をうったのが、カネボウ事件で「会社の一員」として粉飾を止める立場にあった会計士が逆に隠蔽に協力するという事態が起きました。信頼関係による制御は時代に合わなくなってきたのは仕方のないことだと思います。監査調書などもきちんと記載し、他のチームや本部がチェックするような相互けん制の仕組みができたのは全体としては品質のばらつきをなくし、高めたという意味では監査厳格の流れは一定の効果があったことは確かです。
しかし、今は厳格化が単なる本部の中央集権化とマイクロコントロールになって形式主義化が目立ってきた気がします。サンプルが多くないので確かな情報ではないのですが、監査の品質が上がった印象はあるかと企業側の人たちと話をしてみると肯定的な答えは多くありませんでした。監査スタッフはとにかくやたらと資料を多く要求して後は部屋にこもって何をしているかわからない、パートナー(代表社員)は顧客のビジネスについてほとんど理解していないし、社長や役員との会議でも質問はマニュアルに書いてあるような定型的な同じような質問を毎年繰り返すばかりで時間の無駄だと思う、パートナーに会計処理の質問をしても本部に聞くというばかりでまともに答えられない・・など少なくともここ10年くらいはむしろ低下といっても良いのではないかという意見が多かったです。
要するに上から下までマニュアルをこなして本部の品質管理部門に出す資料の作成に汲々として自分の頭で考えることがない姿が浮かび上がります。そのためマニュアルでカバーできない、本部などで評価できない部分などはおろそかになってきます。特に思うのは全般的リスクの部分で東芝のような巨大企業の場合やたらとチェックの数を増やしても不正の防止は無理で、様々な会社の中の方々とじっくり話をして会社のビジネスを理解してどこにその企業固有のリスクがあるかまずじっくり考えることが必要です。マニュアルは一般的にリスクが高い部分は細かく言及していますがその企業固有のリスクについては言及できません。本部の品質管理やその先の金融庁への対応が真っ先に合って、顧客の目線が不足するとこのような企業固有のリスクはまず発見できないでしょう。私は中央集権的な本部によるマイクロコントロールよりも現場に判断をゆだねる分権化にすこし針を向ける方が監査の厳格化と、品質管理の向上には資すると思います。いかがでしょうか?
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