電通過労死を考える - 一流企業の若手はなぜ過労死するか?

 karoushi

電通で若手女子社員が自殺したことは大きな驚きを与えました。ただ、いつものマスコミの論調で電通という企業の問題に矮小化して電通叩きに走っている感が強く非常に残念です。また、長谷川秀夫武蔵野大教授が以下のようなコメントを述べ、大きな非難を浴びました。ただ、「月当たり残業時間が100時間を越えたくらいで過労死するのは情けない」部分を除けば「一般論としては」まともなことをおっしゃっていると思います。

「月当たり残業時間が100時間を越えたくらいで過労死するのは情けない。会社の業務をこなすというより、自分が請け負った仕事をプロとして完遂するという強い意識があれば、残業時間など関係ない。自分で起業した人は、それこそ寝袋を会社に持ち込んで、仕事に打ち込んだ時期があるはず。更にプロ意識があれば、上司を説得してでも良い成果を出せるように人的資源を獲得すべく最大の努力をすべき。それでも駄目なら、その会社が組織として機能していないので、転職を考えるべき。また、転職できるプロであるべき長期的に自分への投資を続けるべき」

長時間労働は日本企業の特徴とよくおっしゃる方がいますがそんなことはありません。アメリカの超一流のコンサルティング会社や弁護士事務所の若手、大企業でも若手幹部候補生は週80~90時間は当たり前のように働きます。「上司から請け負った仕事をプロとして完遂する」意識は非常に強いです。私もGEの米国本社で働いている際の部下に大学卒1~2年目のFMP(ファイナンシャルマネージメントプログラム)の幹部候補生が何人かいました。彼(女)らはとにかくさまざまな仕事を引き受け普通に休日も深夜も働きます。ただ、その一方で上司である我々も部下のよきメンター(相談相手)としてきちんと成長に寄与しているかは厳しく査定されます。彼(女)らも仕事は快く引き受けますが、目的やゴール、必要な指示が明確でないと反論してきます。しかし、上司も前向きな反論には快く答える社風がありました。ただし、やはり過酷な業務と厳しい査定に音をあげ、世界各国の一流大卒も1~2年で半分が脱落するシビアな世界でした。ある年は東大卒が全滅したという話も聞いたことがあります。

上記の例を見るとアメリカの若手エリートと比べると日本の若手はひ弱と思われるかもしれません。しかし、前提が大きく違います。一番大きいのは失敗を前向きに評価するアメリカの文化でしょう。日本で新卒1~2年目で脱落したら一般的にはバッテンでかなりマイナスで評価されます。一方でアメリカの場合だとGEのプログラムのような過酷な仕事に挑戦した姿勢が、たとえうまくいかなかったとしてもある程度評価されます。少なくともバッテンではありません。電通のような一流企業に入社した東大卒の女性の方にとっては電通を辞めることは人生の落伍者のように感じていたかもしれません。しかし、若者にとっては失敗できるのは大きな特典であり、最初の会社選びを失敗すると現実的には這い上がれないと思わせるような単線的な梯子だけの日本の企業文化がこの問題の根源にあります。

私は人事の専門家ではないので感覚的なものでしかありませんが、評定で部下を育てるという点が日本企業では軽視されているような気がします。GEの幹部候補生の場合は私の上司や人事が定期的に彼(女)らにインタビューして精神的ケアーもある程度しますし、上司の指導法についても聴きます。やはり中にはなにも指導はせずに上司の強い権限を振りかざし彼(女)らにやたらと無理な要求などをしたり秘書代わりに使う人間もいないわけではないですがそのような人間は注意されますし、ひどい場合は評定で大きくマイナスになります。割と日本企業ではあまりこのあたり口を出さないという例が多く、電通の場合なども上司がパワハラなどをしていても周りは見て見ぬふりをしていたのではないでしょうか?

失敗を許さない文化、指導法(特に若手)を軽視する姿勢が私は根源にあった気がします。これは電通だけでなく日本企業一般(例外もあるとは思いますが)に共通する問題でないでしょうか?

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