JTの買収が高すぎないというロジック
日本たばこ(JT)がナチュラル・アメリカン・スピリット(アメスピ)の米国外事業を6000億円で購買収しました。これに対し、買収額が高すぎるという見方が多いようです。しかし、一方新貝副社長が非常に成長性があり5年後には純現金収支300億が見込めるのでけっして高くはないと今朝の日経で反論しています。
投資家の買収評価としてマーケットアプローチのマルチプル法(要は同業他社のPERを使って価値を算定)を使っているとすると、ざっくりとした計算としては以下になります。現状のアメスピの税引き後純利益 xPER(株価収益率)で21億 x15倍(JTのPERを仮に使用)=315億です。要はPERが300倍くらいでないと説明できない数字でとても6000億は高すぎるのだと思います。
一方、JT側はインカムアプローチで相乗効果でかなり将来の成長が見込めると見ているようです。インカムアプローチだと将来このアメスピが稼ぎ出すキャッシュフローをJTの資本コストで割り引いた金額が買収価格になります。5年後300億の純現金収支と言っていますので5年後のターミナルバリュー(継続価値)がカギになります。事業がほぼ永続的に続く価値としては最終年度の次年度のキャッシュフロー÷(成長率 -資本コスト)です。JTの資本コストは(計算は省略しますが)約5%と推定されるので成長率がゼロで翌年も300億としても300億÷5%=6000億となります。当然この値は現在価値に引き直さねばなりませんが5年後以降の成長率もあると踏んでいるでしょうから理論的には正当化出来ると思われます。
ポイントとしてはアメスピの将来の成長性にかけたかなり思い切った買収価額と言えるかと思います。判断の是非についてはアメスピの成長ストーリーがどれだけきちんと考えて作成したものかにかかっていると思われます。JTはIFRS(国際会計基準)適用会社なのでのれんを償却する必要がありません。しかし、この成長ストーリー通りにいかなければ2~3年後に減損をせまられるはずです。外野の人間としてはどうなるか少し楽しみです。