税制改正と手取り感のズレ 非課税枠拡大に感じる違和感
目次
1.税制改正はどう決まるのか?経営者が知っておきたい前提
「税制改正」と聞くと、国会で与野党がしっかり議論して決まるそんなイメージをお持ちの方も多いでしょう。形式上の流れは確かにその通り、以下のようになります。
- 自民党税制調査会で改正の方向性を決定
- それをまとめた「税制改正大綱」を閣議で承認された後に公表
- 官僚大綱に基づきが法案の作成
- 国会で審議し、法案として成立
ただし、実務家の目線で見ると、実質的には自民党税制調査会で勝負はついているというのが現実です。先日自民党税制調査会での改正の内容が公表されました。
そこで、重要なのは、「決まった制度をどう使うか」だけでなく、その制度自体が今の社会や現場に合っているのかを冷静に考えることです。
2.今回の改正のポイントは「非課税枠」か?
所詮小粒ではあるのですが、今回の税制改正(所得税)で注目すべきなのは、通勤手当や食事支給といった、日常的に使われている非課税制度の見直しです。ここで大切なのは、非課税=無制限ではなく、一定額までは非課税、超えた部分は給与として課税という共通ルールがある点です。
自動車等で通勤する場合、通勤距離に応じて非課税限度額が定められています。今回の改正では、例えば、片道65km以上75km未満では非課税限度額月38,700円 → 45,700円に引き上げられました。
ここで重要なのは、
- 45,700円までは非課税
- それを超えた部分は給与として課税
という点です。仮に通勤手当として月50,000円を支給していれば、
- 45,700円:非課税
- 4,300円:給与課税
となります。非課税枠が広がったとはいえ、超えた部分は自動的に給与扱いになる点は変わりません。
社員食堂などでの食事支給についても、基本的な考え方は同じです。
旧制度では、
- 金額基準
- 会社負担が月3,500円以下
- 負担割合の基準
- 従業員が一定割合を自己負担
という条件がありました。
今回の改正では、
- 会社負担の非課税限度額
- 月3,500円 → 月7,500円
に引き上げられています。
ここでもポイントは同じで、
- 7,500円までは非課税
- それを超える会社負担分は給与課税
という扱いになります。食事代を手厚くした場合でも、非課税になるのは「枠内まで」であり、枠を超えた部分は給与として扱われます。
通勤手当も食事支給も、共通しています。非課税枠は「ここまでは補助」それを超えれば「給与」という整理です。全額が一気に給与になるわけではなく、超えた部分だけが課税対象になる。この理解が、実務上もっとも重要です。
3.それでも残る「小手先感」
今回の改正で、非課税枠は確かに広がりました。ただし、所得税と社会保険料の根本的な負担構造には、ほとんど手が付けられていません。160万の壁→178万の壁といった小幅上昇がありましたが、中所得者以上への恩恵は焼け石に水程度、社会保険と合わせての、働き盛り世代の重負担感の解消には全く役に立たないです。国民民主の玉木代表の「ミッションコンプリート」の発言に怒った人々が多かったというのも理解できます。
結果として、
- 通勤手当
- 食事手当
いった小ネタ程度の制度で給与の目減りを補う構造が続いています。これは制度として、かなり無理があります。
こういった中で、トホホな改正の中で、経営者・管理職として重要なのは、
- 非課税枠は「上限がある」
- 超えた部分は必ず給与課税される
- 制度は今後も変わり得る
という前提に立つことです。非課税制度を前提にしすぎると、制度変更のたびに設計を見直す必要が出てきます。
今回の税制改正は、
- 非課税枠を少し広げた
- しかし根本構造は変えていない
という内容です。本来問うべきは、非課税枠をいくらにするかではなく、働き盛り世代に集中する税金と社会保険の一体の負担をどうするかという視点ではないでしょうか。非常に残念な税制改正案でした

