マニュライフ生命が節税保険で行政指導を受けたわけ
目次
1.マニュライフ生命の行政処分
14日の日本経済新聞でマニュライフ生命の処分の記事が以下のように載っていました。「金融庁14日、行きすぎた節税が問題となっていた「節税保険」を巡り、マニュライフ生命保険に対して保険業法に基づく業務改善命令を出したと発表した。節税効果を強調するなど保険本来の趣旨から逸脱した
募集活動を問題視した。商品開発や募集の管理におけるガバナンス(企業統治)の抜本的な強化を求めた。節税保険に関する行政処分は今回が初めて」
経済誌などでも以前からかなり派手なマニュライフ生命の節税保険販売は問題視されていたので
来るものが来たかという感じではあります。特に問題になったのが名義変更プランというものです。正直こういった節税策と国税のいたちごっこ、うんざりするところありますが、少しこれについてみてみます。
2.名義変更プラン
低解約返戻金型定期逓増保険がその舞台です。この保険の設計、解約返戻金が最初の数年間は非常に低く設定されています。例えば保険料は年間保険料1千万円で5年間合計5千万払ったのに保険を解約する際戻ってくる解約返戻金は5百万といった感じです。
以前こういった法人保険、保険料の半分程度は経費計上できましたが、今はかなりの部分資産として計上しなければならなくなりました。ここでは議論を簡単にするためすべて資産5千万計上とします。もしこの状態で法人から会社の役員にこの保険で契約を移転する名義変更が行われたとします
税務上の保険の価格は解約返戻金の5百万です。法人では5千万マイナス5百万で4500万の経費計上ができます。そして、この保険数年たつと急激に解約返戻金が高くなります。例えば6年目(名義変更して1年後)には4.8千万返戻といった感じです。6年目に解約したとするとこの役員は500+1000万(1年間の保険料)の出費で4800千万戻ってきます。
しかもこの4800万-1500万の差額3300万の所得に対しても一時所得とみなされるので以下のような計算式になります。(3300-50)÷=1625万が課税所得となって大幅に圧縮出来ます。要するに会社は経費計上ができて節税、個人は少ない出費で多額の保険金を低い目の税金でえます、保険会社は6千万保険料もらって返戻金4800千万で短期間で多額の利益といわゆる「3方みなよし」・・・と言いたいところだがどうでしょうか。
頭にくるのが税務署、まわりまわってツケはまじめに税金を納めている一般庶民なわけでこんなことで濡れ手に粟で税金逃れをされてはたまらんというわけです。
3.通達の改正による抜け道ふさぎ
この名義変更プランは国税庁が通達を出し、令和3年7月1日以降の名義変更ケースの場合、名義変更時の譲渡価額は資産計上額つまり5千万で譲渡されることとなりました。すると法人側では経費は計上できません。役員側も5000万+1000万の出費で戻りが4800万なので全然このスキームはお得でなくなりました。
多分いったん名義変更前提でこの保険を購入した会社は非常に困ったと思われます。令和3年6月30日までに名義変更をしなければならないので。また、仕方なく名義変更したものの解約返戻金が高くなるまで期間が長くなり、高額の保険料を予定よりも長い期間払わねばならなかった顧客もいたと思われます。
このスキームを「節税保険」としてかなりアグレッシブに売り込んでいたのがマニュライフ生命でした。私のところにもこういった保険販売しませんかというような話は来ていました
4.税理士としてどう思うか?
保険の名義変更プラン、これは脱税ではないです。税法や税務等当局の通達に違反しないよう
商品は組み立てられています。ただ、法人から個人に名義を移す不自然な前提で設計されており
「税金逃れ」であることが明白で、明らかな「租税回避」行為です。租税回避行為というのは法律や制度が意図していない、税金の負担を軽減させる目的以外では不合理な経済活動をすることです。
私のポリシーとして租税回避行為はお客様には進めていません。社会正義に反する行為と私は思いますし、「不合理な経済活動」なので、この変化の激しい時代、節税だけのためにこんな行為をしているとビジネスが傾いてしまうことも十分考えられます。実際私の周りでも節税保険を買ったものの不況になって苦しんでいる経営者何人か見ました。
一方で通達一本、行政指導で節税保険を葬るといった金融庁や国税庁の手法は租税法律主義に反し
気に入らないのですが、この例だけはあまりにも酷いのでやむを得ないかなとは思います。そして、こういった租税回避と税務当局のイタチごごっこ、まじめな納税者だけでなく真面目な税理士にとって本当に迷惑です。どんどん税法が迷路みたいに複雑になっていく原因だからです。