新しい電子帳簿法で本当に紙文化の会計は電子化されるか?

1.電子帳簿法

 コロナ禍で、リモートワークの必要性が叫ばれています。その中でリモートワークが出来ない部署の代表として経理部門があります。経理と関係ない方から見れば、経理はパソコンに向かっているセクションでお客さんにも合わないし、一番リモートワークでできそうです。一つは財務資料を扱うという意味でセキュリティの問題があるとは思われますがそれはシステム上の工夫で何とかなりそうです。

 その要因の一つが税務です。様々な事業活動の中で「紙文化」を推進しているものとして税金関係があります。確定申告こそ電子申告による提出が主流となりつつありますがが、その元資料は紙での保存が義務付けられてまする。それもかなりの部分、長期間保存が義務付けられており、もし税務調査がはいったら・・・と思うと大量に紙で保管しなければなりません。

 ただし、政府も全くこの方面のデジタル化において何も考えていなかったわけではないです。電子帳簿法を制定してこういった書類の電子化に舵を切りつつあります。ただし、財務省の抵抗があるせいか極めて小出しの規制緩和だったと思われます。あくまでも個人的な印象ですが、実務を知らない「頭だけは良い」お役人に、自分で手は動かしたことのない頭の固い公認会計士の大先生が提言して作ったような内容です。

 ところがデジタル政府が強調された後の令和3年度税制大綱によりもしかすると一気に舵を切ったような気がします。税務当局が変な通達を出して骨抜きにしないように祈ってはおりますが。たまたま会計ソフトFREEE社小泉美果氏によるこの新しい電子帳簿法の方向性についてセミナ―があったので、自分なりに咀嚼した話をここで述べます。内容についての誤認の責任はすべて私にあるので念のため申し添えます

2.今までどうだった

 まず、今までまでどうだったかの骨子は以下の通りです

・税務署長の承認を事前に得れば、決算書類や帳簿を電子的に保存できる
・相手から来た請求書等も税務署長の承認を事前に得ればスキャナ保存ができる
・クラウド会計ソフトや電子データで受領した請求書などはそのまま電子保存できる

これだけ見ると便利そうです。ところがほとんど適用している企業はありません。全ての企業で電子帳簿法の適用は推計で0.1%程度しかありません。でも、これだけ見るとすぐにできそうです。ある私のお客様、「電子帳簿法ができたので写メで取っておけば請求書とか捨てて構わないのですよね」と言ってこられた方がいて私が青くなりました。

 なぜならば、実はこの適用には厳しい条件があります。ざっくりお話しをします。

一番面倒なのはレシートを受領した本人がスキャンする場合は署名して受領3日以内にタイムスタンプを押さないといけないことです。ただし、受領していない本人以外がスキャンする場合はおおむね67日以内に同様にデータ保存することが求められます。ちなみに、タイムスタンプとは改ざんされていないことを証明するためのシステムで実はそのシステム導入がまず必要になってきます。

 加えて、紙の書類はスキャン担当者以外の第三者が定期検査を行い、それが終了してやっと紙の書類を廃棄してよいのです。小規模事業者は税理士が確認すればよいということになっていますが、これも税理士に依頼して事業所まで来てもらい検査してもらわねばなりません。

 ちょっと聞いただけでプロセスが複雑で導入する気が起こらないです。リモートワークにも全然適さないですよね。そこで政府、特に河野大臣を中心にようやく昨年末位から動き始めました。

3.新しい税制大綱でどうなるか

この今までの電子帳簿の問題点を挙げると以下でしょう。

・紙の書類が定期検査まで残るのでほとんどテレワークの推進には寄与しない
・プロセスが面倒でとても生産性が高くなるとは思えない
・ペーパーレスにはほとんど寄与しない

 大きな変化が起こり令和3年度税制大綱によると以下のような改正が行われそうです。どうやら河野大臣が抵抗する財務省関係を押し切ったらしいです。以下のように変わります

・税務署長の事前承認は廃止
・領収書に署名するなどは廃止、タイムスタンプも訂正・削除履歴の残るクラウドシステムに格納する場合は不要、面倒な牽制体制や定期検査などは不要

 この「訂正・削除履歴の残るクラウドシステム」は月約4万程度(FREEE社の場合)であり、経理専任者が複数いるレベルの
規模の企業だと生産性の改善で全く問題のないレベルでの導入ができそうです。逆に言えば小規模零細といったレベルだとまだ費用面で厳しいといった面はあるでしょう。個人的には小規模の方が導入するためには月1万円台以内に収まると積極的にお勧めできそうです。

 一方、ある国税庁OBの税理士の方が財務省がこういった緩和に反対な理由は理解はできるとおっしゃっていました。なぜならば国税調査官が電子資料に反対だからだそうです。紙の領収書を見ていると不自然な作り方、改ざんなどがベテラン調査官についてはピンときて不正などを見つけることが出来たりするからです。そもそも国税の現場は電子化には前向きではないのです。会計監査してきた立場からみても非常に気持ちはわかりますが、そんなことで社会の効率性が阻害されるのは本末転倒でしょう

何はともあれ、電子帳簿令和3年度どんな具体的な改正が出てくるのか楽しみです