ベア実施要請に伴う違和感
安倍首相がベア(ベースアップ)を過去3年間並みにしてほしいと賃上げ要請をしています。賃上げと言っても年齢や勤続年数に応じて給与が上がる定期昇給と、そのベースとなる基本給全体をを底上げするベースアップがあり、安倍首相が要請しているのは後者の方です。経済学の考え方として労働者の所得として恒常所得(一般的な月額給与)と変動所得(ボーナスなど一時金)があるが消費は恒常所得の関数という見方があります。要するにお金を使う際にボーナスなどよりも定期的な賃金が上がった方が消費をする可能性が高いという仮説です。短期的、経済学的にはベア上昇、消費が増えて景気が良くなるというサイクルを想定しており考え方としては間違っていません。
一方で正規と非正規の社員の区分をなくすために同一労働同一賃金が叫ばれています。企業の感覚としては確かに非正規の人たちはその職務の割に安い賃金しか与えていない人が多いというのはあると思われますが、その一方で勤続年数や年齢が高いだけでその職務の割に高い給与を与えている社員も多数いるということも同時にあると思われます。これを達成するためにはそもそも現在のベースアップと単なる勤続年数、年齢による賃金表を大きく改訂しなければならないはずです。しかし、安倍首相の要請は現状の賃金表を維持を想定した発言ですから整合性は取れていません。
私の場合、会社員のころは外資系やベンチャー企業が長かったのでベアーや定昇という考え方とは無縁でした。外資系は実績を上げて昇格すれば昇給しますがそうでなければ上がりません。ベンチャーは役員だったのでそもそも業績が上がらないと極端な話報酬さえもらえません。ただ、自分の市場価値でわかっているのである程度どの企業に行っても一定の給与はもらえるので大きな不安はありませんでした。同一労働同一賃金とはそのような世界でいったんその波にうまく乗れればある程度の快適性はあります。一方自分のスキルがはっきりしない市場価値が不明な方は多分波にのれず残酷な世界になるかもしれません。特に40代後半以降の方は年功制でおそらく市場価値よりも高い給与をもらっている方が多数だと思われるので厳しい話かと思います。
ここ3~4年いい景気を謳歌したいのであれば現状維持が一番で安倍首相のベアーをあげようという方針は間違っていません。しかし長期的にはこの定昇・ベアーの仕組みがある限り転職はしにくいですし、同一労働同一賃金は不可能で正規と非正規の区別は永遠に縮まらないでしょう。多様性のある働き方というのは「社畜」から解放されて自由なのですが一方で「野生動物」となるので厳しい世界なのです。