インボイス3割特例に安心してはいけない理由  ― 税制改正大綱が中小企業に突きつける“静かな警告”

目次

1.背景と全体像:消費税は「取りやすいところ」から取りにいく

 税制改正大綱の続きです。前回は所得税関係を見てきましたが、今回は消費税関連です。今回の税制改正大綱を俯瞰すると、方向性は一貫してはいます。それは「制度の穴を放置しない」「捕捉しやすいところから確実に課税する」という姿勢です。

 インボイス制度はその象徴でしたが、今回の改正ではさらに一歩踏み込み、
・小規模事業者向け経過措置の再設計
・越境ECやプラットフォームを通じた取引への課税
が明確に打ち出されました。

 表向きは「激変緩和」「負担への配慮」という言葉が並びますが、全体としては消費税の網を確実に細かくする改正だと理解した方がよいでしょう。

2.インボイス3割特例は本当に「激変緩和」か

 今回もっとも注目を集めているのが、インボイス制度における経過措置の見直しでしょう。免税事業者からインボイス発行事業者になった個人事業者について、令和9年・10年の2年間は、納付税額を売上消費税の3割に抑えられるとされました。一見すると「配慮」のように見えます。しかし、私はこの措置をかなり中途半端だと感じています。

 そもそも問題の本質は、
・免税事業者だった人が、ある日突然「事務負担」と「納税義務」を同時に背負わされる
点にあります。
 2割が3割になったところで、負担が本質的に軽くなるわけではありません。さらに悪いのは、個人事業主だけで零細法人は対象外、また期限が明確に区切られていることです。「2年後には普通に払ってください」という前提が透けて見えるため、事業者にとっては先送りされただけの“予告された負担増”にすぎません。

 結果として、
・腰を据えて制度対応する動機になりにくい
・「どうせ数年後は同じ」と思考停止を招く
という、政策としてはあまり筋の良くない激変緩和措置だと言わざるを得ないでしょう。

3.仕入税額控除の経過措置縮小が示す本音

 一方で、より本音が表れているのが、インボイス未登録事業者からの仕入れに関する控除率の見直しです。70% → 50% → 30%と段階的に縮小され、しかも仕入額1億円超の部分は適用不可となります。

 ここには明確なメッセージがあります。
「いつまでも免税事業者として甘えた経営するな」ということです。 免税事業者との取引先はインボイス登録を求めるのか、価格交渉、取引を見直すのか、これは税務の話ではなく、完全に経営判断の領域に踏み込んできています。

4.越境EC・プラットフォーム課税は極めて合理的

 越境ECについては、1万円以下の商品であっても国内向け販売は消費税課税の対象とされました。加えて、デジタルプラットフォームを介した取引では、プラットフォーム事業者(例えばアマゾンのように他国の商品を自己のプラットフォームで販売している場合)を「みなし売主」とする仕組みが導入されています。

 これは今回の改正の中では、最も評価できる点でしょう。小規模でとらえにくい海外事業者を相手にするより、担税力が高く、実務をコントロールできるプラットフォーム事業者を押さえる方が、制度としてははるかに合理的です。国内事業者から見ても、税負担の非対称性が是正されるという意味で、歓迎すべき改正だといえます。

5.まとめ:これは「猶予」ではなく「準備期間」

 今回の税制改正大綱は、優しさよりも現実が前面に出た内容です。特にインボイスの3割特例は、激変緩和というより時間稼ぎに近い措置でしょう。重要なのは、この数年間を「何も起きない期間」と誤解しないことです。制度は確実に完成形へ向かっています。

 あなたの事業は、
・誰と取引し
・どこで付加価値を生み
・どこまで事務負担を引き受けるのか

 インボイス問題は、税制の話ではなく、事業の設計そのものを問いかけています。その覚悟が、今あらためて求められているのだと思います。