日本の所得税制が“分かりにくい”と言われ続ける本当の理由

1.児童手当は大きく変わったが、「税制の改革」はまだ序章にすぎない

 日本の少子化が止まりません。2024年には出生数が70万人を割り込みました。ちなみに1973年は約211万人でした。
 その大きな理由の一つが「教育費の重さ」と「可処分所得の少なさ」だと言われます。その中でもひどいと思われのたが児童手当を支給する代わりに年少扶養控除(16歳未満の親族に対して所得控除を行う)の廃止です。

 年少扶養控除を廃止する一方、児童手当が拡充されるという触れ込みだったのですが、結局、一方で所得制限が行われました。近年のものでいうと以下です。平均よりは年収高めとは思いますが子育て世代としては決して生活が楽とは言えない世帯は所得控除がなくなり、児童手当ももらえないという「子育て圧迫」制度でした。「昇給したら損をする」という逆転現象が家庭に強いストレスを生んでいました。

  • 所得660万円(給与収入目安:約900万円)で通常の手当が終わり、月5,000円の特例給付へ
  • 所得896万円(給与収入目安:約1,100万円)で手当ゼロ

 こうした中、2024年10月の児童手当改正は、長年の不満を解消する“抜本改革”でした。2024年の改正では所得制限が撤廃され、高校生まで支給対象が広がり、多子加算も強化されました。支援はようやく“誰にでも届く”形に整い始めたのです。

 しかし、問題はここから先です。児童手当が先に進んだ一方で、税制側の支援はどうか?手取を増やすとの触れ込みでしたが令和7年度(2025年度)税制改正を見ると、方向性は良いものの、“まだ序章”という印象が否めません。

2.海外の税制はここまで明確なのに、日本はなぜこんなに「わかりにくく、小粒」なのか

 今回の税制改正で注目すべきは2つだけです。1つは 基礎控除の引き上げ、もう1つは 特定親族特別控除の創設――すなわち大学生世代の子を扶養する家庭への新しい控除です。

 どちらも方向性としては「子育て世帯の負担を軽くする」ものですが、効果は限定的です。理由は簡単で、控除方式(所得控除)は、そもそも支援効果が小さいからです。

 同じタイミングで海外を見ると、この差は歴然としています(多少データが古い可能性がありますのでご注意ください)。

■ アメリカ

アメリカの子育て支援の柱は 税額控除。税金そのものを直接引き算する方式です。

  • 子ども1人あたり最大 2,200ドル
  • このうち最大 1,700ドルは“現金で還付”される(実質的に低所得者に対する給付金)
  • 所得制限は夫婦で約40万ドル

(注:インフレ調整で金額が少し変わっている可能性はあります)つまり、税金がそもそも少ない家庭でも支援が確実に届く仕組みです。

■ イギリス

 まず 年間12,570ポンド(約240万円)が完全に非課税
子育て世帯の手取りが大きく残るよう、制度そのものがシンプルに設計されています。

■ ドイツ

 基礎控除が約190万円と大きい上に、子ども向け控除と児童手当が自動で最適化されます。利用者は「どちらを選ぶべきか」を考える必要すらありません。

■ 一方、日本の税制は…

今回の令和7年度税制改正では、

  • 基礎控除の引き上げ
  • 大学生世帯向けの「特定親族特別控除」の創設

といった改善が入りましたが、正直なところ 小粒 です。保険料控除の見直し、住宅ローン控除の一部上限引き上げなどは、ほぼ“誤差の範囲”で、わかりにくいわりに子育て支援という観点では実生活に大きな影響はありません。

日本の税制は依然として、

  • 控除が細かい
  • 効果が見えにくい
  • 申告・制度が複雑
  • どれが家計に響くのか分かりにくい

という構造のままです。

3.日本の少子化対策は「金額」よりも、「制度の分かりやすさ」で遅れている

 2024年の児童手当改正は大きな一歩です。2025年度の税制改正も、「子育て世帯をこれから支える」という方向性は感じられます。しかし、海外と比べると日本が遅れているのは、
支援額もそうですが制度の設計そのものです。

日本の制度は、

  • 手当
  • 控除
  • 保険料軽減
  • 教育無償化
  • 住宅支援

が縦割りにバラバラに並んでおり、利用者からは理解不能です。財務省が減税はあまりしたくないけど「やっている感」を出すためにあえて複雑にして国民の目をそらそうとしているのでは・・などと邪推も働くくらいです。

 一方で海外は、「税額控除」「非課税枠拡大」「自動判定」 といった手法で、比較的支援が分かりやすく、必要な人に確実に届くよう設計されています。

 日本が本当に変わるためには、児童手当の拡充に加えて、税制そのものを「現役世代の家計に効く形」に作り直す必要があるでしょう。今回の改正は、その意味で序の口レベルです。たいていの家庭では、今回の改正は大して手取り改善につながっていないでしょう。一方、例えば日本に“税額控除”が導入されたら、生活はどれだけ変わるでしょうか。

 ここから先の5年が、子育て世帯にとって、そして日本にとって所得税制の大きな岐路になるということを願っています