【経費にできない!?】家事関連費と税務調査のリアル~不安になりすぎないために知っておくべきこと~

目次

1.実は家事関連費、実は経費として認められるハードルが高いが・・・

 「フリーランスとして起業または副業を始めたけど、ネット代や家賃、車のガソリン代って経費になるの?」これは、副業・フリーランス初心者からよくいただく質問です。

 確かに、自宅やスマホ、インターネットを使って仕事をしていれば、その費用は「業務上の経費」に思えますよね。でも、実際の税務調査では「家事と業務が混ざっている支出(=家事関連費)」について厳しい判断がされることも…。また、実は税務当局と争いになって国税不服審判所や裁判所の判決などになった場合、納税者の立場から見るとちょっとこれはないよなぁと個人的に感じるような厳しい判決がだされることは多いです。

 少し不安になった方も多いかもしれませんが、最初に結論からお伝えします。

■ 多くの裁判・審判ケースでは「家事関連費」だけが単独で厳しく指摘されることは少ない
■ 目立つ問題が他にあるケースで「ついでに」論点にされているだけがほとんど
■ 真面目に記録・管理していれば、過剰に恐れる必要はない

今回は、税務調査・審判・裁判の実例をもとに、家事関連費に対する正しい向き合い方をお伝えしたいと思います。

2.インターネット代が認められなかったケース

 そもそも、副業の場合、収入が「事業所得」として認められるかどうかが大前提です。なぜなら、事業所得なら赤字を他の所得(給与など)と相殺できる=節税になるから。結構ネットなどで取り上げられており安易に考えている方もいらっしゃるようです。ただし、すべての副業が自動的に「事業所得」になるわけではありません。

  • 継続性があるか?
  • 自分のリスクで経営しているか?
  • 利益を得る目的が明確か?

こういった基準を満たして初めて、「雑所得」ではなく「事業所得」とされます。(注:雑所得は赤字でも給与所得と相殺できない)。さて、そのハードルを越えて、事業として認められたとします。しかし、例えばインターネット代や通信費、家賃などは経費として問題がないのでしょうか?

 実は国税不服審判所で明確にインターネット代が否認された審判例があります。この方はインターネット上でFX取引をしていたのにです。なぜだったのでしょうか。このFXトレーダーの事例では、インターネット通信費を経費に計上していましたが、税務当局は「業務用・家事用の区分ができない」として全額否認しました。

 そして国税不服審判所の採決でも合理的に区分されていないという理由による全額否認されました。これは、結構衝撃的で税理士業界でも話題になりました。ただ、実は…この人、無申告でした。(注:国税不服審判所とは税務当局の処置について不服な場合申し立てができる行政機関)

 つまり、そもそも確定申告をしていなかったことが最大の問題点。家事関連費は「ついでに指摘された」だけの副次的論点でした。

 

3.高級外車やプロ野球選手の衣食住は?

 勤務医で医療コンサルタント業を副業としていた方が、ジャガーの減価償却費を70%業務用として経費に計上。税務署からは「多すぎる」とされ約30%部分の身とされたのですが、最終的に国税不服審判所の裁決で認定された割合はたった9%、なんとかえって経費の否認割合が高まりました。

 でもこの事案も、よく見ると「車両価格が高額で目立っていた」「運行記録がまったくなかった」など、普通では考えにくいずさんな管理状況がありました。実際、私もある開業医さんでほぼ勤務実態のない親族の高級外車を100%経費にしようとしていて対立、結局顧問を下ろさせていただいたことがありました。 

 また、プロ野球選手が、健康管理や生活必需品に関する支出(旅費・飲食費・衣類・防犯費など)を経費にしていましたが、「生活費と変わらない」として全額否認の例がありました。これも、「家事関連費」が本質的な問題というより、「あまりに生活費と区分できない支出を大量に計上した」こと自体が目立ちすぎていたという背景があります。

4.個人事業主や副業の方が気を付けるポイント

 ここまでの実例を見ると、「怖い!個人事業主や副業なんて経費使えないの?」と思われたかもしれません。これらは極端な例、もしくは他の重大な問題があって調査に入られた上で、家事関連費も併せて否認されたにすぎません。

たとえば、

  • 無申告
  • 高級外車や目立つ経費がある
  • 支出の金額が大きすぎる
  • 明らかにプライベートな内容を無理に経費にしている

 こういった「異常値」があったことで調査対象になっているのです。一般的にまじめにやっている方で以下のようなポイントを意識しておけばさほど神経質になる必要はないです

  1. ある程度客観的な按分方法を用意しておく
     → 例:自宅の床面積で業務スペースを区分、(ざっくりでもよいので)インターネット使用時間の記録など
  2. 同じ方法を毎年継続して使う
     →税務署は「継続性」を重視。毎年コロコロ変えるのはNG
  3. 記録と根拠を残す
     → 領収書、メモ、写真など「業務で使っている」と説明できるものを保存

 今までの裁判例や裁決を読んで「全部否認されるのか」と思いがちです。確かに審判例や裁判例を見るとその通りです。しかし、税務当局にとっても実はやたらと摘発して納税者が不満に思い審判や裁判になってしまうのは手間もかかるし避けたいのです。

 したがって、ほとんどの副業者やフリーランスにとって、常識の範囲で記録・区分していれば、必要経費がさほど問題になることはありません。大切なのは、「家事関連費だからダメ」ではなく、「説明できるかどうか」です。なんでも経費に入れてしまうのもまずいですが、過度に神経質になりすぎず、記録と一貫性を大切にしながら、正しい経費処理を行いましょう。