知らないと損する壁の数々~103万の壁だけじゃない
1.税制改正大綱
昨年の12月20日自民党と公明党は令和7年度の税制改正大綱を発表しました。プロセスとしてはこの税制改正大綱が閣議決定された後、国会(財政金融委員会:国税、総務委員会:地方税)で審議され決議後、税法として世に出ます。
今までは自民党税制調査会という密室でしかもインナーとよばれる数人の幹部の意向でほぼ決まるといわれていました。今回は国民民主党の103万の壁問題の提起でかなり表に出て議論がされ、ずいぶん雰囲気が変わってきなと思いました。いつもはこの税制改正大綱をただ単に条文に落としたものが税法改正だったのですが、今回自公両党は少数与党、国会審議はどうなるのでしょうか?
その中で壁問題がずいぶん話題となりましたが、それぞれの壁について少し話したいと思います。まず、なぜ103万の壁なのという話ですが、これは国税の給与所得控除55万と所得控除48万の合計です。国税の計算ではこの所得控除を控除した数字に税率をかける(5.105%)ので103万までは国税は課されないというととなり、逆に言えば103万を超えれば税金(国税)がかかります。
2.103万の壁だけではない、壁だらけ
現在様々な夫婦の在り方というものがありますが、ここでは主に103万の壁で主として議論になる会社員の夫とパートで働く妻のケースをもとに壁の話をしたいと思います。表題にもあるように壁は103万の壁だけではないです
- 98万円の壁
住民税の所得控除は43万円なのでここから均等割り(現状一律5000円)が課されます。こっそり令和6年度から増税され森林環境税1000円が増えました。ただし、10%の所得割はかかりません。
- 100万円の壁
住民税の所得割の課税は国税とは違い所得45万(非課税限度額)から始まります。したがって、100万-55万の45万円超から住民税10%が課税されます
- 103万の壁
103万円超から国税の課税が始まります。ただ104万円になっても国税は5.105%なので510円です。しかし、住民税は10%なので1000円、合わせて増加分は1510円です。ただし、もらえる給料は1万円増えているわけですから手取り増は8490円です。
- 106万の壁と130万の壁
非常に簡単に言うと大企業にパートだと106万の壁、中小企業のパートだと130万の壁です。他に労働時間数などの決まりもありますが。
個人的にはこの壁が一番の問題だと思います。ただ、これはいわゆる「パンドラの箱」開けてしまうと大騒ぎになります。本来は政治家が問題提起しなければならないと思うのですが、国民を愚民と思っているのでしょうね。実際まだ、103万の壁と比べ大きな議論のうねりにはなっていません。
今までの壁と違うのは、税金は(収入-控除額)x税率なので、壁を越えても手取りの額の増加が鈍くなるだけですが、この社会保険料の壁は直接、収入x社会保険料率なので手取りが減ります。社会保険料率は介護保険料率も入れると約15%、ざっくり10万円以上も手取りが壁を越えたとたんに減ります。
加えてこれとほぼ同額が企業からも徴収されます。考え方によっては本来勤労者の人々に割り当てる原資が社会保険料として勤め先から社会保険機構(厚労省)に収められているといえます。
- 150万の壁
給与収入150万から夫の配偶者控除38万が減り始め、約201万でゼロになります
- 夫の1095万~1195万の壁
夫の配偶者控除38万円が夫の給料が1095万を超えると減り始め、1195万になったところでゼロとなります。今話題の「年収1200万でも貧乏」の要因の一つです。
税理士でもすべての壁を網羅しているかわからない状態ですが、このように本当に壁だらけでたまに妻の友人などから「どのくらいパートしたらお得意なのかしら・・」といわれても旦那さんの収入や勤め先など様々な条件を聞かないと答えられないのですさて、この大騒ぎ今回の税制改正でいったいどうなったのでしょうか?
3.税制改正
今回令和7年度税制改正で103万の壁→123万の壁になったと新聞などで報道されていました。これは一体どういうことなのでしょうか?これは前述の給与所得控除が65万→75万、そして基礎控除が48万→58万になるので75万+58万=123万になるといった議論です。
一方住民税については「所要の措置を講ず」などとはっきりとした記載はありませんが(給与所得控除は共通)、おそらく基礎控除についても10万引き上げられると想像します。
一方でこの壁で便乗悪乗りしようとたくらんでいると感じてしまうのは厚労省の社会保険制度です。それによると106万、130万の壁は無くなります。めでたいなと思いきや、簡単にいうと(零細個人事業所を除けば)週20時間以上働くと社会保険の対象になります。壁がなくなるのではなく週20時間の壁という新しい壁に置き換わるだけです。ざっくりのパートの平均時給1200円にかけると1200×20時間x4週=96万でちゃっかり社会保険料がかかる層は拡大していくことになります。
そのほかにも、年金関係、現在は月収65万円が上限で、それ以上月収が増えても額が変わらないのですが、今回それを75万~98万くらいまで引き上げようという案も出ています。この月収、確かに平均からすると高収入ですが、都会で子供が2人以上いたら結構つつましい生活を送らないとだめでとても「富裕層」などとは言えません。
といったわけで税制も社会保険料も壁だらけでわかりにくい、何とかすっきりしてほしいものだと思います。