残念だと思う役員報酬のワナ
目次
1.悪名高き役員報酬の規程(法人税法第34条)
私が、個人的に改正してほしい税法の一つが法人税法第34条、役員報酬に関する規程です。簡単に言うと、役員に対する報酬は定期同額か事前確定届出給与以外は役員賞与とされ許さないというものです。細かい定義はあるのですが、一般的には役員の報酬は毎月同額または事前に支給時期と金額を定めた報酬のみ損金算入できる、要するに会社の経費になるという規程です。
この条文の書き方としては原則役員に対する報酬は損金不算入、しかし定期同額と事前確定給与のみ許容されるという特に中小企業の社長には腹立たしい書き方です。この条文に対する税務当局や判例の言い分は、役員の報酬を恣意的に支給して法人の税負担を不当に調整することを防止するということです。
そもそも旧商法的な考え方も役員賞与は利益処分で行われていたので、基本的には配当と一緒、したがって、損金不算入であるということがきっかけではありました。しかし、商法が改正された後もそのままちゃっかり残っていると考えるのは邪推でしょうか?
諸外国を見ても不当に高額な役員報酬は否認されることはありますが、日本のように原則役員報酬は損金不算入といった規程はかなり厳しいといえます。
2.この規程にモノ申すという裁判
この法人税法第34条に対しモノ申すといった訴訟がありました。ただ、個人的にはこれ勝てるのかな?といった感じではあります。この34条には事前確定届出給与として「確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与」という記載があるます。訴えている会社は、定時株主総会(令和元年9月30日開催)で決議した代表取締役2名への賞与について、支給時期を「令和2年6月30日」、支給額を「2,800万円(本件各届出給与額)」と記載した各事前確定届出給与に関する届出書を所轄税務署長に提出したのですが、同年6月30日に本件各届出給与額と異なる「2,500万円(本件各支給給与額)」を支給しました。
会社の主張は要するに確定した日(6月30日)に会社側で確定した額を支給すれば足りる、事前確定額≠事後確定額も許容されるといったものです。これに対し、東京高裁は事前確定額≠事後確定額だと会社側が利益操作をして不当に法人税を逃れる行為ができるという趣旨で会社側の主張を棄却しています。
役員報酬として否認されると法人税と所得税両課税され業界用語で「往復ビンタ」になります。そもそも役員報酬は法人税を逃れても所得税で課税されるのでここまで厳しい規程が必要かは疑問です。ただ、現状は法令が定められており、普通に読めば確定した額」は事前に決めた額ですから、裁判所としては原告の会社のいうことを認めないのは仕方ないと私でも思います。ただ、この原告最高裁に上告したようです。残念ながら、多分実質門前払いになるのではと思います。
3.最近税務調査で聞くこと
この事前確定届出給与、株主総会議事録等で決議する必要があります。(法人税法施行令第69条③)。そして、解説本によっては事前確定届出給与を税務署に提出する際、株主総会議事録等を添付するように記載してあるものもあります。
加えて、最近の調査で聞くのは事前確定届出給与の税務署への届出時に株主総会議事録を添付していないことをもって、いわゆる役員賞与を税務上否認するといった指摘をしてくる調査官がいるようです。
確かに税務調査が来るので泥縄で株主総会議事録を作成し、議事録の印鑑を乾かすために議事録を天日干ししたというトホホな話も聞いたことがあるので、調査官の主張も一理はあるとは思います。
ただ、当然否認するならば課税要件法定主義で勝手に税務調査官のさじ加減で課税できたりするものではないというのが私の考えです。法令では「株主総会議事録等で決議」は要件ですが、事前確定届出給与に添付し提出していることが要件とは私が見る限り法人税法、そして施行令などをみてもありません。そういった勝手な税務調査官の指摘に対しては私だったら拒絶します。ただ、当たり前ですが、面倒を避けるためにも添付しておいた方がいいとは思いますし私もそのように心がけてはいます。
役員報酬、税務調査で税務調査官が狙ってくる部分です。この法人税法第34条の定めのために、我々税理士は結構役員に対する支給関係(有形無形含め)気を遣うところですが、正直経済活動としては生産性低いですし、単なる税務調査の際の指摘ネタとしてあるんじゃないの?と思うのは私だけでしょうか?