インボイス制度と電子帳簿保存法を巡る迷走

目次

1.電子帳簿保存法とは

 今年から導入された新しい電子帳簿保存法と来年10月から導入されるインボイス制度いろいろと迷走しているように思えます。税理士的には勘弁してよ・・という感じです。まずはざっくりとした2つの制度と論点を明らかにしたいと思います。

 まず電子帳簿保存法ですが骨子は以下の3つからなります

・国税関係帳簿書類のデータ保存
・国税関係書類のスキャナ保存制度
・電子取引にかかるデータ保存義務規定

 平たく言うと帳簿は電子保存が可能になり、書面の請求書などの証憑はスキャンによる電子保存が許容されるようになりました。一方電子取引(ウェブでの取引やメール添付の請求書など)は電子保存が義務化されのです(ただし、2年間猶予)。

 電子保存が許容されるので良かったと思いきやその条件が非常に細かいです。いわゆる証憑の訂正・削除などがしっかりトレースできるような体制が整っていなければいけない、そしてスキャンも、オリジナルの用紙の大きさやスキャナの様々な情報を残さねばならないなどかなり細かいです

 あくまでも想像ですが、国税調査の現場からは抵抗があったと思われます。ベテランの調査官などは架空取引の請求書などは書面を見ただけで「なにかおかしい?」と感じるらしいです。したがって、電子化されると勘が働かないというわけです。なんとなくその気持ちは監査人であった私も理解はできます。

 だからと言ってこんな面倒な仕組みにしなくても・・・とは思います。是非、日本のお役所も書面のものをすべてこれと同じ条件でスキャナ化してみて、大変さを味わっていただきたいと思います。とりあえず一般の中小企業レベルではハードルが高くスキャナ保存は全然無理と思われます

 これより酷いのは電子取引の保存義務です。今までは電子取引にあたってもプリンターなどで打ち出して保存していたがそれは不可になります。そして保存するにあたっても様々な保存要件を満たさないといけないのです。

 その一つが検索要件で、「取引年月日その他の日付」、「取引金額」、「取引先名称」の3項目を条件設定項目とし、日付や金額は範囲指定及び2以上の項目を組み合わせた条件で検索ができなければいけないとしています。

 電子取引のファイルと会計ソフトが連動していれば楽勝ですが、逆に言えばそれができていないと
かなり面倒です。確かにこのような仕組みあればいいとは思いますが、正直これができなくても税務調査以外は誰も困りません。税務調査だけのためにここまで中小企業に労力を費やさせるの?と疑問に思います。

2.インボイス制度とは

 インボイス制度を一言でいうと消費税の取引において相手先の登録番号などが付されたインボイスの発行および保存が義務付けられるということです。問題になっているのが「ほぼすべてのインボイスの保存が必要」と「免税事業者はインボイスが発行できない制度なのでほぼ強制的に課税事業者になる」の2点に集約されると思われます。

 特に後者は政治的問題点になっています。ただ、そもそも消費税部分は免税事業者の売上ではなく、単に預かっている消費税部分にすぎないわけです。本来この部分が事業者に残るのが不自然なのであり、メスを入れられて当然と理論的には思います。ただし、消費税部分が手元に残るという前提でビジネスを組み立てているのでそれを突然止めるといわれても困るという面は理解できます。ただし、これも実際は突然ではなくかなり前からインボイス制度の導入は決まっていました。

 マイナンバーなどとは違い、周知活動はあまり盛んでなくようやく今年の夏くらいから盛んになってきという感は強いです。あまりにも適格請求書発行事業者の登録が少ないので国税庁が最近になって慌て始めました。地元の税務署の担当官からも「先生の事務所登録状況どうですか?」と電話もかかってきました。

3.改善した電子帳簿保存法

自民党税制調査会でもこの電子帳簿保存法やインボイス制度の混乱でいろいろな対策を立て始めました。以下はまだ決定ではないですが多分大きく実現に向けて動き出すと思われます

 電子帳簿保存法においてはまずスキャナ保存制度の導入でのいろいろな細かい規則の緩和を行いました。 スキャナ保存をした際にいちいちど大きさ、解像度、階調(色の情報)の記録を残さなければならなかっのですが不要にしました。またスキャナ読み取り者の情報も不要にして帳簿の記録事項との間の相互関連性の確認できるよう求める書類を重要書類(契約書や領収書)に限るとしました

 電子取引においては検索要件を緩和しました。務署長が相当の理由があると認める場合、出力書面が保存され、ダウンロードができればよいということにしました。また、売上高5千万以下の事業者についてははダウンロードの求めに応じればよいということになりました。結局細かく定めた検索要件に関しては整然としたデータ出力書面に基づきダウンロードの条件に条件に応じればよいという方向に落ち着きうそうです。

 電子帳簿保存法において、税務当局がやたらと定めた細かい条項の緩和が行われ改善といってもよいかもしれません。しかし迷走感があるのはインボイス制度の方です

4.迷走するインボイス制度

 インボイス制度の主として免税事業者対策は迷走の感は強いです。まず、新しく適格請求書発行事業者になった免税事業者は一律売上税額20%の納付となる措置を3年間導入することがあげられています。また、売上1億円以下の事業者は6年間1万円未満の課税仕入れについてインボイスの保存を不要とするとなりそうです。加えて、1万円未満の少額な値引きは値引きインボイスの発行を不要とするということも加わりました。

 上記の値引きインボイスで頻繁に出てくるのは振込手数用の差引きでしょう。しばしば買い手が振込手数料を負担せずに差し引いて送金することがあります。その場合売り手は値引き処理をしますがその際ルールとしては値引きインボイスの発行が原則です。多分99%そんなインボイス発行するとは思えないので実務に寄り添ったということでしょう。 

 
 電子帳簿保存法の電子取引ですが、そもそも民間に強いるのだったら役所からやってほしいというのが実感です。特に税務署を含め、役所はいまだに電話、郵便、Fax文化でこれからまず改めてほしいと思います。

 一方インボイスの方ですが税理士的には20%の売上税額とか1万円未満の課税仕入れのインボイス不要とかは止めてほしというのが実感です。ただでさえ、インボイス制度導入で実務が複雑になってくるのにそれに拍車をかけてどんどん複雑になってくるのは勘弁してくださいというのが個人的な気持ちです。