日本郵政のトール社の買収失敗はなぜか

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日本郵政が豪国物流会社トール社の減損で4003億円の損失を出すこととなりました。これは2015年に6200億円で買収したトールのブランド価値を占めすのれんを一括償却したためです。その原因についてはトール社の営業利益が当初の予測の408百万豪ドルから69百万豪ドルと大幅に低下する見込みとなったからと発表しています。日本郵政の長門社長は「当時(買収時)の査定が甘く買収額が高かったのではないか」と述べて言う一方「現地に任せすぎていた」とも述べています。買収時のEBITDA倍率(買収価格を税引前利益に償却費用を加えたもの≒キャッシュフローで割ったもの)は9.2で、やや高めではありますが許容の範囲内ではあると思います。東芝の買収のように一種の潜在負債のようなものがあったわけではなく、プレスリリースで伝えるように豪経済の不振であれば少なくとも「査定が甘く買収額が高かったこと」が今回の減損の根本原因ではありません。

むしろ日本企業の海外企業の買収でよく聞く「現地に任せすぎていた」が根本原因だと思います。25日に発表されたプレスリリースを読むとトール社の弱みということできちんと分析されています。まとめるとトール社はM&Aで成長してきた会社ですが統合が不完全でバックオフィスやITなども統合されておらず高い固定費率だったということです。もしかすると外部のコンサルティング会社などを使ったのかもしれませんが明確に不振の分析されており、さすが優秀な方々がいらっしゃるのだなと思われました。一方で、これは別に今起こったことではなく買収時には存在していたことです。このような分析をしていなかったか活かされていなかったわけです。つまり買収しっぱなしで日本郵政としてPMI(買収後統合)を全くやっていなかったことになります。日本の一流企業でもデューデリジェンス(買収監査)でいわゆる資産負債の査定と法務(リーガルチェック)だけ行い、このような企業の経営上の問題点など将来事業成績に影響を与えるような事項分析であるビジネスデューデリをほとんどやっていないことが多いことに驚きます。ビジネスデューデリをやっていないわけですから統合の絵も描けずPMIはやらない、「現地に任せっぱなし」になるわけです。

本来はビジネスデューデリを買収前に行っており、そこである程度事業戦略を固めて買収後は一気に(ある程度再調査などは必要なケースはありますが)統合手続きに入るべきでしょう。買収された側というのは不安なものですが、どちらかというと「何かおこるのではないか?」という将来の不安の方が大きいものです。最初に一気に「やることはXXです」とアナウンスして一気呵成にやる方が、たとえ従業員にとって苦い現実であっても先の見えない不安よりはましです。まとめると、今回の減損は経営陣のリーダーシップの欠如とM&A戦略の未熟さが原因の人災と言えると思います。

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